アジソン病を知っていますか?~「なんとなく元気がない」の裏に隠れる病気~
横須賀三浦のドックオーナーの皆さんこんにちわ。今日はなかなか発見の難しい病気アジソン病について説明します。
はじめに
「うちの子、なんだか最近元気がない気がするけど、食欲はあるし…」 「ちょっと下痢気味だけど、そのうち治るかな」
飼い主さんなら一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。多くの場合は様子を見ているうちに回復しますが、実はこうした”なんとなく調子が悪い”を繰り返す背景に、アジソン病(副腎皮質機能低下症)という病気が隠れていることがあります。
アジソン病は、見た目にはほとんど異常が分からない子から、普段から体が弱い子まで、症状の出方に大きな幅がある病気です。そのため飼い主さんはもちろん、私たち獣医師にとっても診断が難しいことがある病気の一つです。今日は、この「隠れた擬態の名人」とも言えるアジソン病について、分かりやすくお話しします。
アジソン病とはどんな病気?
アジソン病は、腎臓の近くにある「副腎」という小さな臓器の機能が低下することで起こる病気です。
副腎皮質からは、体にとって欠かせない2種類のホルモンが分泌されています。
グルココルチコイド(コルチゾール):ストレスに対応し、体の代謝を調整するホルモン
ミネラルコルチコイド(アルドステロン):体内のナトリウムやカリウムのバランスを保つホルモン
何らかの原因でこれらのホルモンの分泌が低下すると、全身にさまざまな不調が現れます。原因として最も多いのは「特発性」、つまり自己免疫の異常によって副腎そのものが萎縮してしまうケースです。稀に、下垂体の異常や腫瘍、感染症などが引き金になることもあります。
症状が分かりにくい「擬態の名人」
アジソン病がやっかいなのは、これといって決め手になるような特徴的な症状がないことです。見られる症状としては、
元気や食欲がない
震え
嘔吐や下痢などの消化器症状
体重減少
徐脈(脈がゆっくりになる)や体温低下
といったものが挙げられますが、どれも他の病気でもよく見られる、いわば「ありふれた」症状ばかりです。しかも症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、じわじわと進行していく特徴があります。
さらに厄介なのは、ストレスがかかると症状が悪化しやすいという性質です。ホルモンの分泌が低下しているため、本来ならストレスに対処できるはずの体の仕組みがうまく働かなくなるのです。旅行や来客、災害、ワクチン接種といった些細な出来事がきっかけで、急に体調を崩したように見えることもあります。
普段は大人しく落ち着いて見える子が実はアジソン病を抱えていたり、逆にもともと胃腸が弱い体質だと思われていた子が、実はアジソン病による消化器症状だった、ということも珍しくありません。「うちの子はこういう体質だから」と思い込んでしまいやすいのが、この病気の怖いところです。
見つかるきっかけの多くは「血液検査」
こうした分かりにくい症状の中で、アジソン病を疑うきっかけとして特に重要なのが血液検査での電解質異常です。
アルドステロンの分泌が低下すると、体内のナトリウムが失われやすくなる一方でカリウムが体内に溜まりやすくなり、血液検査で「ナトリウムが低い・カリウムが高い」という特徴的なパターンが現れることがあります。腎機能の数値にも影響が出ることがあり、これだけを見ると腎臓病と間違われることもあります。
つまり、症状だけを見て「様子がおかしいな」と気づくよりも先に、健康診断の血液検査で電解質の異常が見つかり、そこから初めてアジソン病が疑われるというケースが実際には少なくありません。確定診断のためにはACTH刺激試験という専門的な検査が必要になりますが、そのきっかけを作るのは、日頃の健康診断で行う一般的な血液検査であることが多いのです。
気づかれないまま進行するとどうなるか
アジソン病は、症状が軽いうちは「なんとなく調子が悪い日がある」程度で見過ごされがちですが、ホルモンの分泌低下がある程度まで進むと、ストレスをきっかけに突然血圧が下がり、ショック状態に陥ることがあります。これは「アジソンクリーゼ」と呼ばれる緊急事態で、命に関わることもある怖い状態です。
普段は元気そうに見えていた子が、ある日突然ぐったりして緊急搬送される――アジソン病では、そうした形で初めて病気の存在が明らかになることも残念ながらあります。
治療は「一生涯」続く付き合いになる
アジソン病そのものを完治させる方法は、残念ながらありません。しかし、不足しているホルモンを薬で補うことで、健康な子と変わらない生活を送ることができる病気でもあります。治療の柱は大きく分けて2つです。
ミネラルコルチコイドの補充:ナトリウムとカリウムのバランスを整えるための薬で、代表的なものが「フロリネフ(フルドロコルチゾン)」という錠剤です。1日1〜2回の内服が基本になりますが、施設によっては月1回の注射薬(DOCP製剤)を選択することもあります。
グルココルチコイドの補充:ストレス時に不足しがちなコルチゾールを補うため、プレドニゾロンなどのステロイド剤を少量併用することが一般的です。
そしてこの投薬は、基本的に一生涯続ける必要があります。症状が落ち着いてきても自己判断で薬をやめることはできず、定期的な血液検査で電解質や体調を確認しながら、量を微調整していくことになります。
フロリネフは決して安くない薬
ここで飼い主さんに知っておいていただきたいのが、フロリネフの薬代です。フロリネフは日本国内で製造販売されている数少ない薬の一つですが、1錠あたり700円前後と、決して安価な薬ではありません。体格や必要量にもよりますが、これが生涯続くとなると、決して小さくない負担になります。DOCP注射に切り替えた場合も、体重によっては1回の注射でまとまった金額になることがあります。
なお薬価は改定や供給状況によって変動することがあり、今後さらに負担が増える可能性も否定できません。「今はこのくらい」という目安として捉えていただき、実際の金額については処方時にご確認いただければと思います。
加えて、定期的な血液検査や通院費用も継続的にかかってきます。つまりアジソン病は、「診断が難しい」だけでなく「治療費が生涯にわたってかさみやすい」病気でもあるのです。
ペット保険に加入している飼い主さんは有利
こうした継続的な治療費の負担を考えると、ペット保険に加入しているかどうかで、その後の家計への影響が大きく変わってきます。多くのペット保険では、アジソン病の診断や治療にかかる通院・投薬・検査費用が補償の対象となる場合があり、生涯にわたる薬代や定期検査費用の負担を軽減できます(もちろん、加入時期や既往歴の有無、各社の約款によって補償内容は異なりますので、契約中の保険会社に確認いただくのが確実です)。
逆に言えば、アジソン病のように「症状では気づきにくく、診断がついた時にはすでに生涯治療が前提になっている」病気こそ、まだ何も病気が見つかっていない元気なうちに保険に加入しておく価値がある、とも言えます。健康診断の受診とあわせて、ペット保険への加入も検討してみる良いきっかけにしていただければと思います。
早期発見のために、私たちができること
アジソン病は、症状だけを頼りに見つけるのが難しい病気です。だからこそ、定期的な健康診断と血液検査が大きな意味を持ちます。
「食欲不振や下痢を繰り返すけれど、これといった原因が見当たらない」
「ストレスがかかる出来事のあとに、決まって体調を崩す」
「元気そうに見えるのに、血液検査で電解質の数値が気になる」
こうしたサインに心当たりがある場合は、一度きちんと検査を受けてみることをおすすめします。特に症状がない時期でも、健康診断の一環として血液検査を受けておくことで、電解質のわずかな異常から病気の手がかりをつかめることがあります。
「うちの子は元気だから大丈夫」という思い込みこそが、実はアジソン病を見逃す一番の落とし穴かもしれません。定期的な健康診断は、そうした”見えない不調”に気づくための大切な機会です。少しでも気になることがあれば、どうぞ気軽にご相談ください。
