
犬の子宮蓄膿症について ― 「いつか」ではなく「今」避妊手術を考えてほしい理由
はじめに
三浦市、横須賀市の飼い主の皆さんこんにちわ。今日は子宮蓄膿症-pyometora-パイオメトラという病気について解説します。
「うちの子は元気だから、避妊手術はまだいいかな」
そんなふうに思っている飼い主さんは、実はとても多いです。手術と聞くと、体への負担や費用を考えて、つい先延ばしにしたくなる気持ちはよくわかります。
ですが今日は、未避妊のわんちゃんに起こりうる「子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)」という病気について、正しく知っていただきたいと思います。怖がらせるための話ではなく、正しいタイミングで避妊手術を受けることが、わんちゃんと飼い主さんの幸せにどうつながるかをお伝えしたいのです。
子宮蓄膿症とはどんな病気か
子宮蓄膿症は、子宮の中に細菌感染が起こり、膿が溜まってしまう病気です。発情(生理)のあと、ホルモンの影響で子宮内膜が変化しやすい状態になったところに細菌が感染することで発症します。
症状は次のようなものが挙げられます。
- 元気・食欲の低下
- 多飲多尿(水をよく飲む、おしっこの量が増える)
- お腹が張ってくる
- 陰部からの膿や出血(開放性の場合)
- 嘔吐や下痢
- 重症化すると、発熱や敗血症性ショックに至ることもあります
やっかいなのは、陰部から膿が出てこない「閉塞性」というタイプです。外から見て分かる変化が少ないため発見が遅れやすく、その分、症状が重くなってから来院されるケースが少なくありません。「なんとなく元気がない」「生理の時期にいつも調子を崩す」といった変化を、様子見せずに教えていただけると、私たちも早めに動くことができます。
なぜ未避妊のわんちゃんに多いのか
子宮蓄膿症は、妊娠しないまま発情を繰り返すことで、リスクが少しずつ積み重なっていく病気です。発情のたびに、子宮内膜は「妊娠に備える」ホルモン変化を受けますが、実際に妊娠・出産が起こらないと、その変化が過剰に積み重なり、子宮内膜が感染に弱い状態になっていきます。
そのため、発情を経験する回数が増えるほど、また年齢を重ねるほど、発症のリスクは高くなっていきます。特に中齢以降の未避妊のメス犬では発生率がかなり高く、当院で診療していても、決して珍しい病気ではないという実感があります。「うちの子はまだ大丈夫」と思っていても、発情を重ねるごとに静かにリスクが積み上がっているというのが、この病気の本質です。
裏を返せば、避妊手術(卵巣子宮全摘出術)によって子宮と卵巣そのものを摘出してしまえば、この病気は理論上起こり得なくなります。数ある病気の中でも、手術によってほぼ確実に予防できる数少ない病気のひとつです。
治療について ― 手術は「治せる」病気です
子宮蓄膿症と診断された場合、基本的な治療は外科手術による卵巣・子宮の摘出です。全身麻酔下での手術になり、内科的な点滴管理や抗生剤による全身状態の安定化と並行して進めていきます。
しっかりと治療を行えば、手術による治癒率はおよそ9割と、高い確率で完治が見込める病気です。診断された時点で驚かれる飼い主さんも多いのですが、「治らない病気」ではなく「適切に対処すれば治せる病気」だということは、まずお伝えしたいポイントです。
もちろん、発見が遅れて全身状態が悪化してからの手術は、それだけリスクも上がります。だからこそ、先ほどお伝えしたような症状のサインを見逃さず、早めに来院いただくことが、治療の負担を減らすことにつながります。
手術後も残る「もうひとつのリスク」― 乳腺腫瘍
ここで、あわせてお伝えしておきたいことがあります。
子宮蓄膿症の手術によって卵巣・子宮を摘出すれば、この病気自体は根治します。ただし、それまでに発情を何度も経験してきたわんちゃんの場合、乳腺腫瘍の発生リスクは、手術をしても下がりきらずに残ってしまうという点です。
乳腺腫瘍の発生リスクは、避妊手術を受けるタイミングによって大きく変わることが知られています。初回発情前に避妊手術を行った場合はごくわずかなリスクに抑えられますが、発情を何度も経験したあとで手術を受けた場合は、その後何年経っても、乳腺腫瘍の発生率がおよそ26%程度残ってしまうといわれています。
つまり、子宮蓄膿症になってから手術で命を救うことはできても、それより前の発情の積み重ねによって高まった乳腺腫瘍のリスクまでは、後から手術で取り消すことができないということです。
大事なお伝えしたいこと ― 「適切な時期」の避妊手術が持つ意味
ここまでお話ししてきたことをまとめると、伝えたいことはシンプルです。
避妊手術を、適切な時期に受けていただくことには、とても大きなメリットがあります。
- 子宮蓄膿症そのものをほぼ予防できる
- 発情を重ねる前に手術をすることで、乳腺腫瘍のリスクも大きく抑えられる
- 病気になってから慌てて手術を検討するより、心身への負担がずっと小さい
「まだ元気だから」「タイミングを逃した」と感じている飼い主さんも、決して手遅れということはありません。ですが、発情を重ねれば重ねるほど、静かにリスクが積み上がっていくのも事実です。
わんちゃんが元気なうちに、落ち着いて避妊手術について考えていただくこと。それが、将来わんちゃんに辛い思いをさせず、飼い主さんご自身も安心して長く一緒に過ごしていただくための、いちばんシンプルで確実な方法だと考えています。
こんな症状があったら、早めにご相談ください
- 発情の時期に食欲や元気がいつも以上に落ちる
- 水を飲む量やおしっこの量が明らかに増えた
- お腹が張ってきた、膨らんできたように見える
- 陰部から膿のようなものや出血が続いている
- ぐったりして動きたがらない
これらのサインに気づいたときは、「様子を見る」のではなく、早めに動物病院にご相談ください。
避妊手術のタイミングについて迷っている飼い主さんも、どうぞお気軽にご相談ください。それぞれのわんちゃんの年齢や体調に合わせて、一緒に考えさせていただきます。