横須賀三浦の皆さんこんにちわ、曇りの日々が続きますねえ( ; ; )うちの獣職もそうですが気圧が低い日が続くとどうも体調を崩しやすいというか、具合の悪いわんちゃん猫さんが増えてきているような気がします。飼主さんも含めて健康に気を遣っていきましょう。そして今日のテーマは潜在的な重要疾患「感染性心内膜炎」になります。この疾病は診断が困難でおそらく多くの獣医も飼主さんも気がつかないままかもという恐怖があります。
お口のケアが、心臓を守る——感染性心内膜炎という病気を知ってください
循環器(心臓)を専門に診る当院では、心臓病のわんちゃんを毎日たくさん診察しています。そのなかで私たちが日々感じていること——それは、「口の中をきちんと診てもらっていないまま、心臓の治療だけを続けているわんちゃんがとても多い」ということです。
これは飼い主さんのせいではありません。口腔ケアの重要性が、これまで十分に伝えられてこなかったことに問題があると私は考えています。今回は、歯周病と心臓が実はとても深くつながっている話を、「感染性心内膜炎」という病気を通してお伝えしたいと思います。
感染性心内膜炎とは何か
感染性心内膜炎(IE: Infective Endocarditis)とは、心臓の弁や内壁に細菌が付着・増殖し、そこで炎症が起きる病気です。
心臓は全身に血液を送り続けるポンプです。その内部には、血液が逆流しないよう開閉する「弁」があります。犬では僧帽弁(左心房と左心室の間)と大動脈弁がとくに感染を受けやすいことが知られています。細菌が弁に定着すると、「疣贅(ゆうぜい)」と呼ばれるカビのような菌の塊が形成され、弁の機能を急速に破壊していきます。
この病気の恐ろしさは、その予後の厳しさにあります。感染性心内膜炎と診断された犬の約3割が1週間以内に亡くなり、9割が5カ月以内に亡くなるという報告もあるほどです。急性の心不全、血栓による脳・腎臓・脾臓への塞栓、敗血症——これらが同時多発的に起きるため、治療が間に合わないケースも少なくありません。
そしてこの致命的な病気の、重要な引き金のひとつが「歯周病」なのです。
口の中の細菌が、心臓に届くまで
歯周病が進行すると、歯ぐきには慢性的な炎症が生じ、出血が起きやすい状態になります。この出血した部分から、口腔内で増え続けた細菌が血液の中に入り込みます。これを菌血症(bacteremia)といいます。
健康な状態であれば免疫がこの細菌を素早く排除してくれます。しかし歯周病が重度であったり、すでに心臓の弁に異常がある場合(たとえば僧帽弁閉鎖不全症など)、弁の表面に細菌が定着しやすくなり、感染性心内膜炎へと発展するリス
クが高まります。
国内外の獣医学の研究によって、歯周病は犬における感染性心内膜炎の重要な原因のひとつであることが示されています。歯ぐきの菌が口から心臓まで運ばれ、取り返しのつかないダメージを与える——決して大げさではなく、これが実際に起きていることです。
診断が難しい、だからこそ「予防」が全て
感染性心内膜炎のもうひとつの怖さは、診断の難しさにあります。
初期症状は「なんとなく元気がない」「熱がある」「食欲が落ちた」「足を痛がる」など、ほかの多くの病気と区別がつきにくいものばかりです。心臓の弁に異常があればエコー検査(心エコー)で疣贅を確認できる場合がありますが、小さな段階では見逃されることもあります。血液培養で原因菌を特定しようとしても、陰性になる割合が60〜70%に上るという報告もあるほど、診断は容易ではありません。
さらに厄介なのは、もともと僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病を抱えているわんちゃんでは、感染性心内膜炎の症状が既存の心臓病と混同されやすいという点です。「心臓病が悪化した」と思っていたら、実は感染性心内膜炎が重なっていた、ということが起こりえます。
これほど診断が難しく、発症してからの予後も厳しい病気だからこそ——「起こさないこと」、すなわち予防が最大の治療になります。

心臓病のわんちゃんこそ、口腔ケアを
当院に心臓病の診断・治療でいらっしゃるわんちゃんの多くは、同時に口腔疾患も抱えています。3歳以上の犬の約80%が何らかの歯周病を患っているというデータを踏まえれば、これは偶然ではありません。
心臓の弁に異常があるわんちゃんは、感染性心内膜炎のリスクがとくに高いと考えられます。そのようなわんちゃんにとって、口腔ケアは「できればしたほうがいい」ではなく、「心臓を守るために欠かせないケア」です。
飼い主さんにお願いしたいこと
毎日の歯磨きを習慣に
歯垢(プラーク)は2〜3日で歯石に変わります。歯石になると家庭のブラッシングでは取れません。毎日、やさしく歯ブラシを当ててあげることが、菌血症のリスクを下げる第一歩です。
定期的な口腔チェック・スケーリングを
歯石の除去は全身麻酔下での処置が必要です。「麻酔が心配」というお気持ちはよくわかります。しかし、歯周病を放置することのリスクと麻酔のリスクを天秤にかけたとき——特に心臓病を抱えるわんちゃんにとっては——定期的な口腔ケアのほうが長い目で見て安全である場合も多くあります。麻酔の適否については、個々の状態をしっかり評価したうえでご相談します。
こんなサインに気づいたらすぐに相談を
- 口臭が急にひどくなった
- 歯ぐきが赤く腫れている、出血する
- 原因不明の発熱が続く
- 急に元気がなくなった、食欲が落ちた
- 関節を痛がる(感染性心内膜炎の合併症として関節炎が起きることがあります)
最後に
心臓を診る獣医師として、私は「口腔ケアも心臓ケアのひとつ」だと考えています。専門が分かれれば分かれるほど、それぞれの領域だけに目が向きがちになる——これは医療全般の課題でもあります。
しかし、わんちゃんの体はひとつです。口と心臓はつながっています。
日々の歯磨き、定期的な口腔検診——そのひとつひとつが、大切な家族を感染性心内膜炎から守ることに直結しています。何かご心配なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
