横須賀三浦の皆さんこんにちわ。お口は健康の入口第一歩!お互い長生きして一緒に過ごすため一緒に勉強しましょう。

ワンちゃんと猫さんの歯石についての豆知識
——知ると思わず「へえ!」と言ってしまう、口腔ケアの裏側——
愛犬の口のにおいが気になる、歯が黄色くなってきた……そんな経験はありませんか?
「歯石」という言葉は多くの飼い主さんがご存知だと思いますが、その正体や、なぜワンちゃんにあれほど早く歯石がたまるのか、じつはほとんど知られていません。
今回は、動物病院でよく耳にする「歯石」について、ちょっとマニアックな豆知識を交えながら詳しくご紹介します。読み終わるころにはきっと、愛犬のお口を見る目が変わっているはずです。
そもそも「歯石」って何でできているの?
歯石とは、歯の表面に付いた「歯垢(プラーク)」が硬く固まったものです。
歯垢はやわらかい細菌の塊——正確には、食べ物のかすや唾液のネバネバ成分に細菌が絡みついてできた「バイオフィルム」と呼ばれる膜のことです。この歯垢に唾液に含まれるカルシウムやリン酸塩が結びつくことで、石灰化(カルシウムが沈着して固まる現象)が起こり、カチカチの「歯石」へと変化します。
歯石の成分は、約80%がリン酸カルシウムで、残りはタンパク質・炭水化物・細菌の残骸などです。歯石そのものは直接害があるわけではありませんが、その表面がザラザラしているため新たな歯垢が付着しやすく、歯石がどんどん厚く成長していく「悪循環」が起こります。
🦴 豆知識コーナー①「歯石は歯茎の上と下、2種類ある」
じつは歯石には「歯肉縁上歯石(しにくえんじょうしせき)」と「歯肉縁下歯石(しにくえんかしせき)」の2種類があります。
縁上歯石は歯茎より上に見える部分で、色は黄白色。唾液中のミネラルで作られます。
縁下歯石は歯周ポケット(歯茎と歯の間の溝)の奥深くに形成され、血液成分を含むため黒褐色をしています。
縁下歯石は目には見えにくく、歯周病を進行させる最大の悪役。動物病院でスケーリング(歯石除去)を行う際に、歯周ポケットの内部まで丁寧に処置する理由はここにあります。
ワンちゃんの口は「歯石製造マシン」?
ここから先が、今日いちばんの「へえ!」ポイントです。
人間の場合、歯垢が歯石に変化するまでには約2〜4週間かかります。ところがワンちゃんの場合は、わずか3〜5日で歯垢が石灰化してしまうことが知られています。たった数日の違いではなく、人間の5〜10倍もの速さです。
なぜそんなに早いのでしょうか? その答えは「唾液のpH」にあります。
🦴 豆知識コーナー②「虫歯と歯石はトレードオフの関係」
人間の唾液は弱酸性(pH6.5〜7.0程度)ですが、ワンちゃんの唾液はアルカリ性(pH8.0〜8.5程度)です。
このアルカリ性の環境が、虫歯菌(酸を出して歯を溶かす細菌)の繁殖を抑えてくれます。だからワンちゃんに虫歯がほとんどないのです——「ワンちゃんはペロペロなめると傷が早く治る」という俗説がありますが、それはともかく、虫歯になりにくい口をしていることは事実です。
しかしここに「コイン裏の話」があります。アルカリ性の環境では石灰化(カルシウムの沈着)が進みやすい。つまり歯垢がどんどん硬くなりやすい環境でもあるのです。虫歯になりにくい口は、歯石ができやすい口——これはワンちゃんと猫さんに共通する、ちょっと切ない口腔内の真実です。
なぜ小型犬は歯石がつきやすいの?
ワンちゃんの永久歯は全部で42本。人間の永久歯(28〜32本)よりもずっと多い本数が、小さな顎に詰まっています。特に近年人気の高いトイプードル・チワワ・ダックスフンドなどの小型犬は、顎のサイズに対して歯が密集しがちで、歯と歯の間に食べかすや歯垢がたまりやすい構造になっています。
また、「乳歯遺残(にゅうしいざん)」——生後6〜7か月頃の生え変わり時期に乳歯がうまく抜けずに残ってしまう状態——も小型犬に多く見られます。乳歯と永久歯が並んで生えている状態では、その隙間に歯垢がたまりやすくなるため、歯石形成がさらに加速します。生え変わりの時期が終わっても乳歯が残っているようであれば、早めにかかりつけの動物病院にご相談ください。

🦴 豆知識コーナー③「歯石がつきやすい場所には理由がある」
歯石が最もつきやすいのは、唾液腺の開口部の近くです。唾液にはカルシウムが豊富に含まれているため、唾液がたくさん分泌される場所ほど石灰化が進みやすいのです。
ワンちゃんでは特に上顎の第4前臼歯(大きな裂肉歯)と犬歯の周辺が要注意。ちょうどほほの内側の唾液腺(耳下腺)の出口に近い位置にあるため、歯石がたまりやすいのです。口を開けたときに一番大きく目立つ奥歯に茶色い歯石がこびりついているのをよく見かけますが、あれはまさにこの理由からです。
家で歯磨きをするときは、この「裂肉歯」と「犬歯」を重点的に磨いてあげると効果的です。

猫さんの場合はどう違う?
猫さんも唾液はアルカリ性で、歯垢が歯石になりやすい環境は同じです。ただし歯石化の速さはワンちゃんよりやや遅く、4〜7日程度とされています(それでも人間より断然速いのですが)。
また、猫さんには「歯頸部吸収病巣(FORL)」というワンちゃんにはほとんど見られない独特の歯の病気があります。これは歯と歯茎の境目(歯頸部)の歯質が吸収・崩壊していく病気で、非常に強い痛みを伴います。歯石とは直接の関係は薄いものの、口腔内の慢性炎症が関与していると考えられており、デンタルケアの重要性は猫さんも変わりません。
猫さんの歯のお手入れが難しいと感じている飼い主さんは多いと思います。いきなりブラッシングから始めるのではなく、まずは口周りを触ることを嫌がらないよう、日頃からスキンシップの延長として慣らしてあげることが大切です。

歯石は「口の中だけの問題」ではない
ここからが、獣医師として特にお伝えしたいことです。
歯石が蓄積して歯周病へと進行すると、歯肉に炎症が起き、炎症部位の血管から歯周病菌が血流に乗って全身へと運ばれます。その結果、心臓・腎臓・肝臓などの重要な臓器に炎症を引き起こすリスクが高まることが知られています。
とりわけ心臓については、歯周病菌が血流を通して心臓の弁に到達し、僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病のリスクを高める可能性が指摘されています。当院でも心臓病のワンちゃんを診察する際、必ず口腔内の状態を確認するようにしています。歯石・歯周病のケアは、心臓病の進行を遅らせるうえでも非常に重要な要素のひとつです。
重度の歯周病が進行すると、顎の骨(歯槽骨)が溶けてしまい、骨折を引き起こすこともあります。特に小型犬の高齢の子では、歯周病による下顎骨骨折という深刻な事態に至るケースが実際に存在します。「たかが歯石」とあなどれない理由が、ここにあります。
🦴 豆知識コーナー④「一度ついた歯石は、歯磨きでは落ちない」
これは非常に大切な事実です。
歯垢の段階(やわらかいうちに)であれば、歯ブラシで除去することができます。しかし石灰化して硬くなった歯石は、家庭での歯磨きでは物理的に除去できません。デンタルジェルやガム・おもちゃは「歯垢の蓄積を抑える」効果はありますが、すでについた歯石を溶かしたり削ったりする力はありません。
歯石が一定以上たまった場合は、動物病院での全身麻酔下によるスケーリング(超音波スケーラーを使った歯石除去)が必要になります。「なぜ麻酔が必要なの?」とよく聞かれますが、無麻酔で器具を口の中に入れると動物が動いてしまい、歯や歯茎を傷つけるリスクが高く、また歯周ポケットの深部まで確実に処置することができないためです。安全で質の高い歯科処置のために、全身麻酔は不可欠です。

歯石を防ぐために、今日からできること
最後に、毎日の生活の中で飼い主さんができることをまとめます。
①毎日の歯磨きが最強の予防策
歯垢が歯石になるまでの猶予は3〜5日(ワンちゃんの場合)。理想は毎日、難しければ2〜3日に1回のペースでブラッシングを行いましょう。歯ブラシが難しい場合は、指サックタイプのブラシやガーゼでもある程度の効果があります。
②子犬・子猫のうちから口を触る練習を
成長してから急に歯磨きを始めようとしても、多くの子が嫌がります。幼いうちから口周りを触ることに慣れさせ、徐々に歯ブラシを使うトレーニングを積んでおくと、その後のデンタルケアがぐっと楽になります。
③定期的な動物病院でのチェック
歯石の付き具合、歯茎の状態、歯周ポケットの深さなどは、専門家でないと正確には評価できません。年に1〜2回は動物病院でお口のチェックを受け、必要に応じてスケーリングを行うことをおすすめします。
④デンタルケアグッズを上手に活用
VOHC(米国獣医口腔衛生委員会)が認証したデンタルケア製品は、一定の科学的根拠に基づいて歯垢・歯石の抑制効果が認められたものです。製品を選ぶ際のひとつの目安にしてみてください。
まとめ
歯石は単に「見た目が気になる汚れ」ではなく、歯周病を引き起こし、さらには心臓・腎臓など全身の健康に影響しうる存在です。ワンちゃんの口腔内はアルカリ性という特性上、人間よりもはるかに歯石ができやすい環境にあります。
「まだ大丈夫かな」と思っているうちに歯石は静かに育っています。愛犬・愛猫の口の中を、ぜひ今日のうちに一度のぞいてみてください。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
MiU動物病院 三浦・横須賀エリアのかかりつけ動物病院
循環器(心臓病)を得意とする当院では、口腔内の健康管理と全身疾患の関係についても丁寧にご説明しています。
