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糖尿病を理解する!第2回

【糖尿病シリーズ②】糖尿病治療の歴史 ― 古代エジプトから始まった、命をつなぐ100年の物語


三浦市、横須賀市の皆さん、こんにちわ。糖尿病をじっくり学ぶシリーズ(のつもり)の第二回は、糖尿病治療の歴史を知ろう!ということで早速始めていきましょう。

はじめに

糖尿病は現代の「生活習慣病」というイメージが強いかもしれません。しかし実は、人類がこの病と向き合ってきた歴史は、驚くほど長いものです。そして、今では当たり前のように使われるインスリン注射が登場したのは、ほんの100年ほど前のこと。その歴史をたどると、医学の進歩がどれほど多くの命を救ってきたかが見えてきます。


紀元前4000年のパピルスに記された「謎の病」

糖尿病の記録として世界最古とされるのは、古代エジプト文明のパピルスに記された文書です。紀元前およそ1550年ごろのものとされる「エーベルス・パピルス」には、「尿が大量に出る病気」に関する記述があり、その起源はさらにさかのぼる紀元前4000年ごろの知識が集積されたものと考えられています。

当時の医師たちは病気の原因こそわかりませんでしたが、症状はしっかりと観察していました。多量の尿、激しい口渇、体の衰弱――これらは現代の糖尿病の症状そのものです。

「糖尿病」を意味する英語 Diabetes mellitus(ダイアビーティス・メリタス) の語源も古く、ギリシャ語の「diabainein(流れ出る、サイフォン)」とラテン語の「mellitus(蜂蜜のように甘い)」が合わさったものです。古代の医師たちは、患者の尿を実際に味見して甘みを確認していたと伝えられています。なんとも大変な診察法ですが、観察眼の鋭さには頭が下がります。


インスリン発見以前の「絶望的な治療」

19世紀末まで、糖尿病の治療は手探り状態でした。当時の医師たちは、食事制限こそが唯一の対処法と考えていました。

なかでも有名なのが、アメリカの医師フレデリック・アレンが1910年代に提唱した「飢餓療法」です。1日わずか数百カロリーという極端な食事制限で血糖値を抑えようとするものでした。確かに血糖値は下がりましたが、患者は骨と皮になるほど衰弱し、糖尿病そのものではなく栄養失調で命を落とすという皮肉な結果を招くこともありました。

当時、1型糖尿病の子どもが診断を受けることは、ほぼ「死の宣告」を意味していました。


1921年、奇跡の発見

転機が訪れたのは1921年、カナダのトロント大学でした。整形外科医のフレデリック・バンティングと助手のチャールズ・ベストが、膵臓から「インスリン」の抽出に成功したのです。

指導教官のジョン・マクラウド教授は最初この研究に懐疑的でしたが、バンティングは夏の間も実験を続けました。牛の膵臓から取り出した抽出液を糖尿病の犬に投与したところ、劇的に血糖値が下がることを確認。翌1922年1月には、重篤な状態だった14歳の少年レナード・トンプソンへの世界初の臨床投与が行われ、見事に回復しました。

この功績により、バンティングとマクラウドは1923年にノーベル生理学・医学賞を受賞。バンティングは賞金をベストと分け合い、マクラウドは生化学者のコリップと分け合ったというエピソードも残っています。


マージョーリー、一頭のシェパードが歴史を変えた

この歴史の中で、忘れてはならない存在がいます。それがマージョーリーという名のジャーマン・シェパードです。

バンティングとベストの実験では、多くの犬が研究に使われましたが、マージョーリーは特別でした。実験のために膵臓を摘出されて糖尿病状態にされた彼女は、インスリンの投与を受けることで70日間以上生き延び、研究の重要な証人となりました。

1921年11月、トロントを訪問した著名な医師や科学者たちの前で、マージョーリーはインスリン投与によって劇的に回復する様子を実演して見せました。その光景は観衆を驚嘆させ、インスリンの有効性を世界に証明する決定的な場面となったのです。

マージョーリーの存在は、動物が医療の進歩に貢献した歴史の中でも特に象徴的な一例として、今日も語り継がれています。

その後の進化 ― 動物から人工合成へ

初期のインスリンは牛や豚の膵臓から抽出したものでした。そのため、アレルギー反応が起きることもありました。

1980年代になると、遺伝子組換え技術を用いた「ヒト型インスリン」の製造が可能になり、安全性と安定供給が大きく向上しました。さらに近年では、作用時間の異なるさまざまな製剤(速効型・持効型など)が開発され、患者一人ひとりの状態に合わせた治療が実現しています。

動物医療も同様に、この恩恵を受けています。現在、犬や猫に使われるインスリンの多くは人医療で開発された製剤をベースにしており、100年前の研究なしには存在し得なかったものです。


まとめ

古代エジプトのパピルスから始まり、飢餓療法の時代を経て、一頭のシェパードが見届けたインスリンの誕生へ。糖尿病治療の歴史は、人間と動物が共に歩んできた医学の物語でもあります。

今、ペットが糖尿病と診断されたとき、私たちが手にしているインスリンは、こうした長い歴史と多くの命の積み重ねの上にあることを、少し心に留めておいていただけると嬉しいです。

次回は「犬の糖尿病の特徴」として、犬に特有の症状・原因・治療法を詳しく解説します。


このシリーズは、糖尿病と診断されたペットの飼い主様や、病気への理解を深めたい方に向けてお届けしています。治療の判断は必ず担当獣医師にご相談ください。