【糖尿病シリーズ⑥】糖尿病治療継続の問題点 ― 「続ける」ことが、命を守る
横須賀三浦の皆さんこんにちわ。写真のワンちゃんは当院で糖尿病の治療を12年続けた子です。2回ケトアシドーシスで入院しましたが、、、、、、糖尿病は今は長生きできる病気です。もう少し頑張って付き合ってくださいね。
はじめに
糖尿病の治療は、始めることより続けることの方がずっと難しい――これは、多くの飼い主さんと向き合ってきた私たちが痛感していることです。
診断直後は不安

と緊張から気持ちが引き締まり、注射も食事管理も真剣に取り組んでくれる方がほとんどです。でも数週間、数ヶ月が経つと、生活の中に治療が溶け込んでいく一方で、少しずつ気持ちが緩んでくることがあります。これは決して飼い主さんの責任感が薄いからではありません。人間として自然なことです。
だからこそ、今回は正直にお伝えしたいと思います。糖尿病の管理をやめてしまうと、何が起きるのか。 そして、どうすれば続けられるのか。
治療が途切れると何が起きるのか
「少しくらい大丈夫」が積み重なるとき
「昨日は忙しかったから注射を1回飛ばしてしまった」「先月から通院が途切れている」「最近は食事管理が少し雑になっている」――こうした小さなほころびが積み重なると、体の中では静かに、しかし確実に変化が起きています。
血糖値が慢性的に高い状態が続くと、目には見えないところで全身の臓器がダメージを受け続けます。
糖尿病が引き起こす合併症
| 合併症 | 犬 | 猫 |
|---|---|---|
| 白内障 | 非常に多い(約75%が発症) | まれ |
| 末梢神経障害 | あり | 多い(かかと歩き) |
| 尿路感染症 | 多い | 多い |
| 肝臓障害(肝リピドーシス等) | あり | 特に多い |
| 腎臓病 | あり | あり |
| 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) | 生命を脅かす内科的緊急状態(入院死亡率30%) | 生命を脅かす内科的緊急状態(入院死亡率30%) |
特に注意が必要なのが糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)です。
インスリンが著しく不足すると、体は脂肪を急激に分解してエネルギーを作ろうとします。この過程で「ケトン体」という物質が大量に発生し、血液が酸性に傾く危険な状態に陥ります。嘔吐・食欲廃絶・ぐったりした様子・独特の甘酸っぱい口臭などが見られたら、一刻も早く動物病院へ連絡してください。DKAは適切な治療を受けなければ命に関わる緊急状態です。
犬の白内障は「静かに、そして急速に」進む
犬では、糖尿病と診断されてから数週間〜数ヶ月のうちに白内障を発症することがあります。高血糖が続くと水晶体内に異常な物質が蓄積し、透明だった水晶体が白く濁っていきます。
白内障が進むと視力が低下し、最終的には失明に至ることもあります。愛犬が家具にぶつかるようになった、暗い場所で動かなくなったなど、日常の変化に早めに気づいてあげることが大切です。血糖コントロールが安定していれば、白内障の進行を遅らせる可能性があります。
なぜ治療は続けにくいのか ― 飼い主さんの「本音」
臨床現場で飼い主さんからよく聞く声を、正直に挙げてみます。
😔「元気そうに見えるから、つい油断してしまう」
糖尿病の怖いところは、合併症が進行していても外見上は元気に見える時期が長いことです。「食欲もあるし、散歩も楽しそう。今日くらいいいか」という感覚は、とても理解できます。でも、体の内側では変化が静かに進んでいます。
😔「毎日の注射が精神的に辛い」
愛するペットに毎日針を刺すことへの罪悪感や、「うまくできているのかな」という不安は、長期間続くと飼い主さん自身のメンタルに影響することがあります。これは「慣れれば大丈夫」では片付けられない、真剣に向き合うべき問題です。
😔「通院の負担が大きい」
定期的な通院は、仕事や家庭の都合と合わせることが難しい場合があります。「また来週に…」が重なって、気がつくと数ヶ月が経っていたというケースは少なくありません。
😔「費用が続くか不安」
インスリン・測定器のコスト・定期検査・通院費――糖尿病の治療は長期にわたるため、経済的な不安を感じる飼い主さんも多くいます。
「続ける」ための処方箋
① 「完璧」を目指さない
1回注射を飛ばしてしまっても、先月の数値が悪かったとしても、それは「失敗」ではありません。大切なのは次の一歩に戻ることです。完璧な管理を目指してプレッシャーで追い詰められるより、「80点の管理を長く続ける」方がずっと大切です。
② 記録をつけて「変化」を楽しむ
アルファトラック3のアプリや手書きの記録でも、血糖値の数字を積み上げていくと「先月より安定してきた」という変化が見えてきます。数値が良くなっていくことは、飼い主さんにとって大きな励みになります。記録は叱るためではなく、一緒に喜ぶための道具です。
③ 小さな変化を遠慮なく相談する
「こんなことを聞いていいのかな」と思うような小さな疑問や不安でも、どんどん相談してください。「最近なんとなく元気がない気がする」「注射のたびに嫌がるようになった」――そういった日常の観察こそが、治療の重要なヒントになります。
④ 治療の「意味」を時々思い出す
日々の管理に追われると、なぜこれをしているのかを忘れてしまうことがあります。血糖値を安定させることは、愛犬・愛猫が痛みなく、快適に、穏やかに過ごせる時間を守ることです。注射をするたびに、「この子のために」という気持ちを少し思い出してみてください。
⑤ 困ったことは「一人で抱えない」
治療の負担が大きくなってきたと感じたら、遠慮なく私たちに話してください。通院の間隔・検査の内容・費用の相談――飼い主さんの生活に無理のない形で、最善の治療を一緒に考えます。あなたが治療を続けられることが、何より大切です。
数字が語る現実 ― 治療継続の重要性
適切な血糖コントロールが続けられた犬と猫は、合併症の発症が抑えられ、良質な生活を長く送れるという報告が多数あります。一方で、治療が不規則になったり中断された場合、合併症の進行が加速し、緊急入院や手術が必要になるリスクが高まります。
「続けることで守れるもの」は、たしかにあります。
まとめ ― あなたのその一歩が、愛する命をつなぐ
糖尿病の治療は、ゴールのないマラソンのように感じることがあるかもしれません。でも、毎日の注射、毎週の血糖測定、定期的な通院――その一つひとつが、愛犬・愛猫の体を守り、一緒に過ごせる時間を確かに延ばしています。
辛いときは正直に言ってください。疲れたときは相談してください。私たちはいつも、あなたと一緒にこの治療を続けていくパートナーでありたいと思っています。
次回はシリーズ最終回「糖尿病とのお家での付き合い方」として、日常生活の中での具体的な管理のコツをお届けします。
このシリーズは、糖尿病と診断されたペットの飼い主様や、病気への理解を深めたい方に向けてお届けしています。治療の判断は必ず担当獣医師にご相談ください。