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腫瘍と向き合う①

横須賀三浦の皆さんこんにちわ。なんか今年台風多い気がしますね。今日から何日かかけて腫瘍について説明していきたいと思います。ワンちゃんの死亡原因第1位、猫さん第2位の悪性腫瘍。我々は知る必要があるんです。

がんってなんだ——愛犬・愛猫と「がん」を知るための第一歩

腫瘍シリーズ 第1回


「しこりが見つかりました。悪性かもしれません」

獣医師からそう告げられたとき、頭が真っ白になる飼い主さんは少なくありません。「がん」という言葉には、それだけの重さがあります。

でも少し立ち止まって考えてみると——がんとはそもそも何なのか、なぜ起こるのか、良性と悪性は何が違うのか、きちんと説明できる方は意外に少ないのではないでしょうか。

このシリーズでは、愛犬・愛猫ががんと診断されたとき、あるいはいつかそのときが来たとき、飼い主さんが「知っている状態」で向き合えるように、がんについての基本的な知識をわかりやすくお伝えしていきます。第1回は「そもそもがんとは何か」というところから、丁寧に解説します。


まず数字から——犬猫にとって、がんとはどれほど身近な病気か

現代の犬猫にとって、がんは決して「他人事」ではありません。

米国の研究では、犬の約2頭に1頭、猫でも約3頭に1頭ががんで亡くなると報告されています。日本でも犬の死亡原因の第1位はがんとされており、猫でも主要な死因のひとつです。

なぜこれほど増えたのでしょうか。答えは「寿命の延長」にあります。

かつて犬猫の平均寿命は今より大幅に短く、フィラリアや感染症、事故で命を落とすことが多かった時代、がんになる前に他の原因で亡くなるケースが多かったのです。室内飼育の普及、予防医療の充実、フードの進化によって寿命が延びた結果、がんになるまで生きる子が増えた——これは医療の進歩がもたらした、皮肉とも言える現実です。

つまりがんは、長生きすることと引き換えにやってくる病気でもあります。


がんとは何か——「細胞の反乱」という視点で考える

私たちの体(そして犬猫の体)は、無数の「細胞」でできています。皮膚の細胞、肝臓の細胞、血液の細胞……それぞれが役割を持ち、秩序正しく分裂・増殖し、古くなると死んで新しい細胞と入れ替わる。このサイクルが精密に維持されることで、体は健康な状態を保っています。

がんとは、このコントロールが壊れた細胞——「命令を無視して増え続ける細胞」のことです。

正常な細胞は、体からの「もう増えなくていい」というシグナルを受け取ると、ちゃんと増殖を止めます。ケガが治ったら新しい細胞を作るのをやめる、という動作がその例です。ところがある細胞が何らかの原因でこのブレーキを失うと、体の命令を無視して増え続け、やがて塊(腫瘍)を作ります。

さらに悪性のがんは、もう一歩進んで「浸潤」と「転移」という能力を持ちます。浸潤とは周囲の正常な組織にじわじわと染み込んで破壊していくこと、転移とは血液やリンパ液の流れに乗って体の別の場所にたどり着き、そこで新しいがんの巣を作ることです。この「浸潤・転移」こそが、悪性腫瘍(がん)を良性腫瘍と根本的に区別する特性です。


なぜがん細胞が生まれるのか——DNAの「誤字」という話

がんが発生する根本的な原因は、DNA(遺伝子)の変異(突然変異)です。

体の設計図とも言えるDNAは、細胞が分裂するたびに複製されます。しかし何十億という文字列を毎回正確にコピーし続けることは、どれほど精巧なシステムでも完璧ではありません。コピーミスが起きることがあります。また、紫外線・化学物質・ウイルス感染・活性酸素といった外的な刺激もDNAを傷つける原因になります。加齢によっても変異は蓄積しやすくなります。

こうしたDNAの「誤字」が、細胞の増殖にブレーキをかける「がん抑制遺伝子」に積み重なったとき、ブレーキが壊れた車のように細胞は止まることができなくなり、がんへと変化していきます。

重要なのは、がんは「一夜にして」できるものではないということです。ひとつのがん細胞が生まれてから、実際に体に影響を与えるほどの大きさに育つまでには、多くの場合、数年から十年以上の時間がかかります。この長い「潜伏期間」の存在が、定期検診による早期発見を重要にしている理由のひとつです。

また、健康な体でも毎日一定数の「がん細胞もどき」が生まれているといわれています。それらを私たちの免疫システム(特にNK細胞やT細胞などのリンパ球)が日々見つけ出して排除しているため、健康な状態では問題が起きません。がんが発症するのは、この免疫の監視をかいくぐった細胞が増え始めたとき、あるいは免疫機能そのものが衰えたときです。


📌 豆知識:犬のがん細胞は人より増殖が速い

人間のがん細胞が倍の数に増えるまでにかかる時間(倍加時間)は平均で約30日とされています。ところが犬のがん細胞の倍加時間はわずか2〜7日という報告があります。これは犬のがんが人間のそれよりも遥かに速く進行しやすいことを意味します。「少し様子を見よう」という判断が大きなタイムロスになりうる理由がここにあります。


「良性」と「悪性」——決定的な違いは「転移するかどうか」

しこりが見つかったとき、飼い主さんが最も気になるのが「良性か悪性か」という点でしょう。

良性腫瘍は、増殖はするものの転移をしません。周囲の組織への浸潤も限定的です。手術で切除できれば多くの場合根治が望めますし、よほど大きくなるか問題のある場所でなければ経過観察で済むこともあります。

一方悪性腫瘍(がん)は、浸潤と転移の能力を持ちます。リンパ節、肺、肝臓、骨など遠くの臓器に飛び火し、そこで新たな病巣を作ります。このため、原発巣(最初にできた場所)を手術で取り除いても、すでに転移が始まっていれば根治は難しくなります。

良性か悪性かの判定は、見た目だけでは確定できません。必要なのは検査です。代表的なのは細い針を刺して細胞を採取する「細胞診」、より確実な診断のための「組織生検(病理検査)」です。「しこりがあっても動いているから大丈夫」「柔らかいから良性のはず」という判断は危険です。見た目や触感だけでは、良性と悪性を区別することはできません。


📌 豆知識:腫瘍の分類——「がん」「肉腫」「白血病」の違い

悪性腫瘍にも発生する細胞の種類によって名称が異なります。上皮系の細胞(皮膚・消化管・乳腺など)から発生するものを「がん(癌腫)」、筋肉・骨・脂肪・血管などの非上皮系から発生するものを「肉腫」、血液・リンパ系の細胞が悪性化したものを「白血病」や「リンパ腫」と呼びます。日常会話では全部まとめて「がん」と呼ばれることが多いですが、医学的には種類によって性質・進行速度・治療法が大きく異なります。


がんが体に何をするのか——進行したときに起こること

がんが体に与えるダメージは、腫瘍が物理的に臓器を圧迫・破壊することだけではありません。

がん細胞は正常な細胞が使うべき栄養(糖質・タンパク質など)を優先的に奪い取りながら増え続けます。体は「がん細胞に栄養を取られまい」と炎症性サイトカインを分泌しますが、この反応がかえって筋肉の分解や食欲低下を招き、痩せていく「悪液質(カヘキシア)」という状態に陥ることがあります。

見た目には「急に痩せた」「食欲が落ちた」「元気がなくなった」という変化として現れます。がんが進行している子に多く見られるこの状態は、がんそのものと同じくらい生命予後に影響する重要なサインです。


早期発見のために——飼い主さんが気づけるサイン

がんの多くは初期に症状が出にくく、気づいたときにはすでにある程度進行していることがあります。だからこそ、日常のスキンシップと定期的な健康診断が重要です。

以下のようなサインに気づいたら、早めにご相談ください。

  • 体の表面にしこり・こぶができた(特に急に大きくなる、左右対称でない、動かない)
  • 原因不明の体重減少が続く
  • 食欲が急に落ちた、食べにくそうにしている
  • 傷が治りにくい、出血しやすい
  • 口臭がひどくなった、口の中に異常がある
  • 咳・呼吸困難・腹部の張り(腹水)
  • 元気がなく、疲れやすくなった

これらのサインはがん以外の病気でも現れることがありますが、いずれも放置してよい症状ではありません。


まとめ——「知ること」から始まる

がんという病気は、確かに怖いものです。しかし正確な知識を持つことで、恐怖は「向き合う力」に変わります。

  • がんは細胞のDNA変異が積み重なって生まれる
  • 良性と悪性の決定的な違いは「転移するかどうか」
  • 犬猫のがんは人より進行が速い傾向がある
  • 早期発見が、選択肢の幅を大きく広げる

次回は「抗がん剤——副作用を知る」と題して、がん治療の中でも特に飼い主さんが不安を感じやすい抗がん剤について、正直に・わかりやすくお伝えします。


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▶ 次回:腫瘍シリーズ第2回「抗がん剤——副作用を知る」