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シン・エコー

心臓病症例報告②

横須賀三浦の皆さんこんにちわ。今日は猫さんの心臓病の症例報告です。拘束型心筋症は稀な疾病ですが、肥大型心筋症と同じく早期発見が難しい病気です。早期発見するためには定期的な心臓エコー検査が必要です。

症例報告|血栓症から回復し、最末期状態にも関わらず長期QOLを維持している拘束型心筋症の猫さん


症例情報

項目内容
動物種
品種日本猫
年齢・性別発症時16歳・避妊メス
体重5.4kg
発症時期2025年8月
当院初診2025年11月

Q&A

Q1. どのような経緯でこの猫さんの心臓病が見つかったのですか?

2025年8月15日、突然の左前肢麻痺が起こりました。飼い主様はすぐに横須賀市内の二次診療施設を受診され、循環器専門医のもとで治療を受けました。診断は拘束型心筋症(RCM)。幸い麻痺の改善に成功しましたが、入院環境への適応が難しかったため、発症から3日後の8月18日に退院されました。利尿剤・強心剤・抗血小板薬が処方され、在宅での管理が始まりました。

その後、通院距離の問題から当院へ転院されたのが2025年11月18日です。


Q2. 当院初診時の状態はいかがでしたか?

来院直後から呼吸数の上昇が認められたため、直ちに酸素室へ搬送し、15分間の呼吸安定を確認したのちに心臓エコー検査を実施しました。

心エコー所見(2025/11/18・当院初診) LA 17.0mm/LV 13.2mm/FS 27.3% 左室壁厚 3.4〜5.0mm/E波 98.4cm/s

拘束型心筋症(RCM)は、心臓の筋肉が硬くなることで拡張がほとんどできなくなる病態です。左心室の拡張・収縮が著しく障害されており、その結果として血液が左心房に滞留し、LA 17.0mmという高度な左房拡大を来たしていました。

左房径が15mmを超えると心臓内に血栓が形成されるリスクが急激に高まります。8月に起きた左前肢の麻痺は、心臓内で形成された血栓が血流に乗って末梢動脈を塞いだこと(心原性血栓塞栓症)によるものとほぼ断定されます。血栓が自然に溶解して麻痺が回復したことは、非常に幸運なことでした。

すでに高用量の利尿剤が使用されていたため、腎臓への影響を確認するため慎重に採血を行いました。

腎機能(2025/11/18):CRE 1.9mg/dL/BUN 15mg/dL(いずれも基準値内)

処方内容は前施設から継続し、翌週に循環器専門医・見上先生の診察を予約しました。

📷 エコー画像挿入予定(2025/11/18・当院初診時)


Q3. 循環器専門医による精査では、どのような診断・判断がなされましたか?

2025年11月28日、見上先生による精査が行われました。この子の状態の重篤さは事前に把握していたため、診察は徹底した安全対策のもとで慎重に進められました。

エコー検査の時点ですでに心房細動(心臓の不規則な拍動)が確認され、心臓が非常に危険な状態にあることが明らかになりました。直ちに利尿剤を静脈注射して酸素室に移し、呼吸状態を整えた上で、ストレスを最小限にするため伏せの姿勢のままレントゲン撮影を実施するという、細心の気遣いのもとで検査が進められました。

心エコー所見(2025/11/28・専門医診察) LA/Ao 19.2/LV 14.6mm 左室壁厚 4.6/4.2mm・5.3/3.3mm(著明な壁肥厚) RA/LA 18.2mm/18.1mm(両心房の高度拡大)

📷 エコー画像挿入予定(2025/11/28・専門医診察時) 📷 レントゲン画像挿入予定(2025/11/28)

左心房の拡大が巨大血栓リスクを高めます。

左心房右心房ともに拡大

左心室はほぼ拡張収縮運動ができない状態

見上先生の判断は、「通院自体がリスクになるほどの最末期の拘束型心筋症」というものでした。持続的な利尿剤投与のための入院を勧める医学的判断が示されましたが、飼い主様は「最後まで家で一緒に過ごしたい」という気持ちを大切にする決断をされました。

その意思を尊重する形で、利尿剤・強心剤・抗血栓薬のそれぞれの用量を引き上げ、在宅ケアを継続することになりました。


Q4. 「最末期」と診断されてから、その後の経過はどうなりましたか?

専門医診察から約3週間後の2025年12月18日。お父様お一人が来院されました。診察室に入るなり、こちらが言葉を選んでいると、

「うちの子、元気なんです。お薬がなくなったので来ました。」

と、おっしゃいました。

最末期と診断された猫さんが、在宅で穏やかに過ごせているという事実に、私たちも心から驚き、そして喜びました。

しかし2026年1月13日、状態が悪化したとのことで緊急来院されました。来院時にはすでに開口呼吸・浅速呼吸・重度の呼吸困難の状態でした。直ちに酸素吸入・静脈確保・利尿剤投与を行い、覚悟の上での緊急入院となりました。

ところが翌日、呼吸状態が安定化し、退院することができました。

重篤な状態であっても、適切な処置によって持ち直す猫さんがいます。これはその典型的な、そして忘れがたい一例です。

退院後は抗血栓薬をクロピドグレルからリバーロキサバン(イグザレルト)へ変更し、血栓予防をさらに強化しました。その後も飼い主様は定期的に薬と食事を受け取りに来院されており、現在まで食欲・元気ともに維持できています。


診療経過の記録

日付主な出来事
2025/08/15左前肢麻痺発症。横須賀二次施設を緊急受診。RCM診断、血栓塞栓症治療
2025/08/18麻痺改善により退院。利尿剤・強心剤・抗血小板薬開始
2025/11/18当院初診。酸素室対応後エコー実施(LA 17.0mm)。専門医へ紹介
2025/11/28見上先生による精査。心房細動確認。最末期と判断。在宅ケア継続を選択
2025/12/18「元気です」と来院。薬処方のみで維持継続
2026/01/13重度呼吸困難にて緊急入院→翌日退院。リバーロキサバンへ変更
2026年以降食欲・元気を維持しながら定期通院継続中

担当獣医師より

拘束型心筋症(RCM)は猫の心臓病の中でも比較的まれで、かつ予後が非常に厳しい疾患です。今回の症例では、血栓塞栓症という命に関わる発症を乗り越えたのち、最末期と診断されながら現在まで元気と食欲を維持されています。

医学的には説明しきれないことが、動物医療の現場には確かに存在します。それは飼い主様が最後まで諦めずに向き合い続けてくださっていることと、決して無関係ではないと感じています。

この症例でとくに大切にしたのは、飼い主様の「家で一緒にいたい」という気持ちを、医療の選択肢の一つとして真剣に受け止めることでした。入院を勧める医学的判断と、在宅を望む飼い主様の気持ち。その両方を尊重した上で、安全にできる限りの治療を在宅で続けるという方針を、専門医・飼い主様・当院で一緒に組み立てました。

心臓病は完治するものではありません。しかしQOL(生活の質)を長く、できるかぎり穏やかに保つことが、私たちが目指していることです。


この症例から学べること

  • 猫の突然の肢麻痺は、心臓病が原因の血栓塞栓症である可能性がある
  • 左房径15mmを超えると血栓リスクが急上昇するため、心エコーによる定期的なモニタリングが重要
  • 最末期であっても、利尿剤を中心とした内科管理によってQOLの維持を目指せる場合がある
  • 利尿剤と腎機能のバランス管理が、長期維持のカギとなる
  • 飼い主様の「どこで、どう過ごしたいか」という意思を医療判断に組み込むことが、ともに納得できる治療につながる

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