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腫瘍と向き合う③

横須賀三浦の皆さんこんにちわ。2日ほどおサボりしました。すみません🙇

がんの治療についてですが、今回の腫瘍シリーズは概論的な大きな括りでまとめております。個々の主要に関しての特徴や独特の治療については、おいおい各論で述べていきます。

がん治療のあれこれ——多様化する治療法

腫瘍シリーズ 第3回


「先生、最近ニュースで『犬のがんに新しい治療法』というのを見たんですが、どうなんでしょう?」

がんの診断を受けた後、こうした質問をお持ちになる飼い主さんは多いです。インターネットにはさまざまな情報があふれていて、何を信じればいいのかわからなくなるのも無理はありません。

今回は、犬猫のがん治療として現在どんな方法があるのかを整理してお伝えします。確かなエビデンス(科学的根拠)がある治療と、期待はされているものの現時点ではまだ判断が難しいもの——正直に、区別しながらご説明します。


まず「三大療法」を知る——がん治療の基本的な柱

どんな病気にも「標準治療」というものがあります。これは「多くの症例に対して現時点で最も効果が確認されている治療法」という意味です。犬猫のがん治療における標準治療の柱は、外科療法・化学療法・放射線療法の三つです。これをまとめて「三大療法」と呼びます。

三大療法に共通するのは、長年の臨床データと研究によって効果と限界が一定程度明らかにされているという点です。副作用や失敗のリスクも含めてある程度予測できるため、「今この子に何ができて、何ができないか」を獣医師が説明しやすい治療です。


外科療法(手術)——三大療法の中でもっとも強力な局所治療

基本的な考え方

がんが体の一部に限局している(転移がない、あるいは転移リスクが低い)場合、手術によって腫瘍ごと切除することが根治に最も直結する治療です。三大療法の中で唯一「その場でがん細胞を取り出す」ことができる手段であり、適切な症例では最も強力な選択肢になります。

手術で重要なのは「マージン(切除縁)」の概念です。腫瘍の見た目の境界線ぴったりに切っても、目に見えないがん細胞が周辺組織に残っていることがあります。そのため、腫瘍の周りに正常組織も含めて一定の幅を持って切除する——これが「マージンを取る」ということです。

マージンが確保できたかどうかは、切除した組織を病理専門家が顕微鏡で確認する「病理検査」によって判定されます。「完全切除(クリーンマージン)」と判定されれば再発リスクが下がり、「不完全切除」と判定された場合は追加治療(再手術または放射線療法)が検討されます。病理検査は手術後の重要なステップで、「取れた」かどうかを確認するための不可欠な手続きです。

手術で根治が狙えるがん、狙いにくいがん

手術の適応は腫瘍の種類と広がりによって大きく変わります。

乳腺腫瘍や皮膚のがんなど、体の表面に限局したものは手術の効果が高く、完全切除で根治が期待できるケースも多くあります。一方、すでにリンパ節や肺などへの転移がある場合、あるいは血液やリンパ系から発生するリンパ腫・白血病のように「もともと全身にあるがん」は、手術では対応できません。このようなケースには化学療法(抗がん剤)が適しています。

また、脳腫瘍や心臓周囲の腫瘍、鼻腔の奥深くにある腫瘍など、解剖学的に切除が難しい場所に発生したがんに対しては、後述する放射線療法が主役になります。

「切れば治る」ではない——複合的な視点で考える

手術はゴールではなく、治療の始まりであることも少なくありません。悪性度の高い腫瘍では、手術後に抗がん剤や放射線療法を組み合わせる「集学的治療(複数の治療法を組み合わせた戦略)」が標準的です。「切ったから安心」ではなく、術後の病理結果とその後の方針についてもしっかり話し合うことが大切です。


化学療法(抗がん剤)——全身に届く治療

前回(第2回)で詳しくお伝えしましたので、ここでは位置づけの整理を中心に。

化学療法は血液を通じて全身に薬を届けるため、局所に留まる手術や放射線療法と異なり、「見えない転移」にも作用できるのが最大の強みです。リンパ腫や白血病など、もともと全身に広がるがんに対しては第一選択になります。また、手術後に残存するかもしれない微小転移への対処(術後補助化学療法)としても使われます。

目標はあくまでQOLを保ちながら「がんと共存する時間を延ばすこと」であり、人間の治療とは根本的に考え方が異なる点はこれまでお伝えした通りです。


放射線療法——「切れない場所」のがんに有効

どんな治療か

放射線療法は、体の外から放射線を照射することでがん細胞のDNAを損傷させ、増殖を止める治療です。外科療法が「切り取る」治療だとすれば、放射線療法は「その場にあるがんを縮小・消滅させる」治療です。

手術できない場所にあるがん——脳腫瘍・鼻腔内腫瘍・脊椎の腫瘍など——に対して、放射線療法は特に重要な選択肢になります。

犬猫の放射線療法の特徴

人間と大きく異なる点が一つあります。それは全身麻酔が必要という点です。人間なら「動かないでください」と言えばじっとしていられますが、犬猫はそうはいきません。放射線を照射する間、体が少しでも動くと照射部位がずれてしまうため、毎回麻酔をかける必要があります。

根治的な照射では週3回・4週間(計12回)程度の麻酔を繰り返すのが一般的な治療スケジュールです。体力的な負担を考えると、全体的な状態が良好な時期に行うことが重要で、高齢でほかに重篤な疾患がある子では適応が制限されることもあります。

「根治的」と「緩和的」、二つの目的

放射線療法には大きく分けて二つの目的があります。

根治的放射線療法は腫瘍の消滅または長期制御を目標とした、回数の多い本格的な照射です。鼻腔内腫瘍や脳腫瘍など、手術では到達できない場所のがんに対して実際に腫瘍が縮小・消失する効果が期待できます。

緩和的放射線療法は、根治ではなく「痛みを和らげる・腫瘍の成長を一時的に抑える」ことを目的とした照射です。回数が少なく(週1回×3〜6回程度)、骨肉腫の骨の痛みを和らげるために用いられることなどが代表的な使用例です。

アクセスの現実

放射線療法は、リニアック(直線加速器)という大型の専門装置が必要なため、実施できる施設は大学附属動物病院や一部の二次診療施設に限られています。かかりつけ医から紹介状を書いてもらって受診する形になることがほとんどです。費用・通院頻度・麻酔リスクなども含めて、担当獣医師とよく相談しながら判断することが大切です。


三大療法を「組み合わせる」——集学的治療という考え方

重要なのは、これらの治療は「どれか一つを選ぶ」ものではなく、腫瘍の種類・広がり・体の状態に応じて組み合わせるものだということです。

たとえば——

  • 手術でできるだけ腫瘍を取り除き(外科)→術後に再発予防のために抗がん剤を使う(化学療法)
  • マージンが確保できなかった部分に放射線を追加で当てる(放射線)→その後に抗がん剤で全身をカバー(化学療法)
  • 手術前に抗がん剤や放射線で腫瘍を小さくしてから(縮小)→切除しやすい状態にしてから手術する

こうした組み合わせの判断は、腫瘍の種類・ステージ・体の状態・飼い主さんの意向を総合して行われます。一つの選択肢だけを見るのではなく、全体の治療戦略として考えることが大切です。


「その他の治療法」について——距離感を持って知る

インターネットを検索すると、三大療法以外にも「免疫療法」「分子標的薬」「温熱療法」など、さまざまな治療法の名前を目にすることと思います。これらについて、現時点での正直な評価をお伝えします。

分子標的薬——一部のがんには確かな実績がある

分子標的薬は、がん細胞に特有の「分子の異常」を標的に攻撃する薬です。正常細胞への影響を最小限にしながらがん細胞を狙い撃ちにするという考え方で、従来の抗がん剤よりも副作用が少ない傾向があります。

犬用の分子標的薬として国内で承認されているのがトセラニブ(商品名:パラディア)です。2014年に国内発売が開始され、犬の再発した肥満細胞腫(皮膚型)の治療薬として開発されましたが、現在は肛門嚢アポクリン腺癌や悪性黒色腫など複数の腫瘍にも使用されています。

ただし大切な注意点があります。分子標的薬は「どんながんにも効く魔法の薬」ではありません。効果が期待できるのは特定の遺伝子変異を持つがんに限られており、反応するかどうかは投与してみないとわからない部分があります。また腫瘍が時間とともに耐性を持つようになることもあり、長期的な消化器系副作用にも注意が必要です。「副作用が少ない=リスクゼロ」ではないという点は正確に理解してください。

免疫療法——現時点では「研究段階」と理解してほしい

近年、「免疫療法」という言葉をよく目にするようになりました。人間の医療では、免疫チェックポイント阻害薬(本庶佑先生がノーベル賞を受賞した研究につながる治療)が一部のがんで革命的な成果を上げており、その期待感が犬猫の医療にも広がっています。

しかし現時点での率直な評価を申し上げると——犬猫の免疫療法で、標準療法に入るほど効果が確認されているものは現時点では存在しません。

もし多くの症例で明確な効果が認められるなら、その治療法はすでに標準療法となって教科書に載り、どこの病院でも受けられるはずです。標準療法になっていない治療法は、その効果がよくわかっていない、あるいはまだ証明されていないことの裏返しでもあります。

犬猫の免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法は、大学や研究機関で臨床試験が進んでいる段階であり、将来的には重要な選択肢になる可能性があります。しかし現時点では「研究の段階にある」ことを正確に理解したうえで、期待しすぎず、でも動向を注視していくというスタンスが適切だと私は考えます。

活性化リンパ球療法(自分の血液からリンパ球を取り出して体外で増やして戻す治療)などを提供する病院も増えていますが、これらも現時点でのエビデンスは限定的です。QOLの改善や副作用の少なさという観点から「補助的に試みる」という選択は理解できますが、抗腫瘍効果に関しては過大な期待を持たないことが大切です。

その他の「補完的」アプローチについて

温熱療法(腫瘍を加熱して細胞を死滅させる治療)、高濃度ビタミンC点滴、食事療法、各種サプリメントなども、がん治療の補助として話題になることがあります。これらについては「明確に有害」とは言えないものも多いですが、単独での抗腫瘍効果が証明されているものはほとんどありません。

標準的な三大療法と並行して「何かできることをしたい」という気持ちは自然です。ただし、こうした治療に大きな費用や時間をかけることで、本来行うべき標準治療が遅れてしまうことのないよう、担当獣医師と相談しながら判断することをお勧めします。


治療を選ぶための「軸」

治療の選択肢が多ければ多いほど、迷いは深くなります。そのとき、判断の軸として大切にしてほしいのは以下の三点です。

① そのがんに、その治療のエビデンスはあるか 腫瘍の種類によって、どの治療が有効かは大きく変わります。「何かに効いたらしい」という情報を自分の子に当てはめるのは危険です。

② その子の全身状態は治療に耐えられるか 高齢であること、ほかに心臓病・腎臓病などを抱えていることは、治療の選択肢に大きく影響します。どんなに優れた治療でも、体がついていけなければ意味がありません。

③ 治療によってその子のQOLはどう変わるか 治療の目的は「長く生かすこと」だけではありません。「その子らしく、できるだけ快適に過ごせること」も同じくらい、あるいはそれ以上に大切な価値観です。


まとめ

がんの治療法は多様化しています。三大療法(外科・化学療法・放射線)はエビデンスのある確かな柱であり、これらを腫瘍の種類と状態に合わせて組み合わせる「集学的治療」が現在の標準的なアプローチです。

一方で、免疫療法をはじめとする新しいアプローチは研究が進んでいますが、現時点では多くが「期待されている段階」にあります。情報の多い時代だからこそ、何がわかっていて、何がまだわかっていないかを正確に見極めることが、愛犬・愛猫にとって最善の選択につながります。

「どんな治療があるのか」よりも大切な問いは、「この子に今、何が一番合っているか」です。そのことを、一緒に考えていけたらと思っています。